「
実家の断捨離」というコラム。
東京在住の女性が、岐阜県山間部の実家を相続なさった事例。
実家は16代目の本家。正月やお盆に人が集まるので、湯呑が100個!(^^;
東京の自宅から車で片道6時間。最寄駅からはタクシーで5000円の立地。
この家を継ぐ必要があるのか、息子の重荷にならないか、と悩んだそうです。
ところが、少しずつ片づけを進めていくにつれて、
残された物を通じて、改めて親の愛情を感じることができたり、
地元の友人や親戚との人脈が復活したり。
そのうち、東京から友人が同行して、数日間の田舎暮らしを楽しみ始めたんだとか。
曰く「この女性にとって、実家の断捨離は故郷の良さの再発見になった。」
まさに、「空き家とは 活かすも壊すも 人次第」。
(
東京土地家屋調査士会空き家川柳入選作品)
放置せずに、まずは一歩踏み出すことが大切ですね。
【『実家の断捨離』(5)~遠方の一軒家と山林を相続して~】
今回紹介するのは東京都在住50歳女性の『実家の断捨離』。3年半前に一人暮らしの母親が亡くなり、一軒家を相続することになりました。
時期:2014年11月~現在進行形
実家:岐阜県 東京の自宅から車で片道6時間
広さ:11LDK一軒家 他に庭、畑、山林、製材工場の木材倉庫
住人:空き家 隣家に叔父一家
きっかけ:一人暮らしの母親が亡くなり実家を相続した
◆実家は遠く離れた山間部の古き良き日本の『田舎の家』
この女性の実家は岐阜県の山間部。東京の自宅からは車で片道6時間。最寄駅からは公共交通機関はなく、タクシーを使うと20分(5,000円)ほど。国道から山道を少し入った所にあり、天井が高く土間がある昔ながらの日本家屋です。他に畑、山林、庭には亡くなった父親が従事していた木材の製材所とその倉庫もあり、筆者も写真を拝見しましたが、まるで映画に出てくるような懐かしい古き良き日本の『田舎の家』です。
「うちは父親が16代目の本家なんです。正月やお盆は人が集まり、昔は結婚式もやりました。食器も御湯呑100個とか大量にあって、普段使わない部屋には客用布団も大量にあります。家財道具の処分を考えただけで気が遠くなりますよね」
◆当時は「空き家問題」とニュースで騒がれていた
この女性が実家を相続した頃「空き家」が社会問題化していました。核家族化、高齢化、そして親世代の他界により空き家が増え、その中でも適正に管理されず防犯・防災上危険がある空き家が増加し問題になっていたのです。
このような危険な空き家を「特定空き家」と認定し、行政が取り壊しや手を加えることができる「空き家対策特定措置法」が施行されたのが平成27年5月のこと。
◆受け継いだ家や山林をどうすればよいか…判断出来ないまま時間が過ぎる
「実家のある岐阜に親戚や幼なじみがいるとはいえ、10代で実家を離れて今も東京で暮らしている自分がこの家を継ぐ必要があるのか、その意味があるのか?」
「代々のご先祖様から受け継いだ財産。簡単に手放す気持ちにはなれない……」
「でも手放さず誰かに有効に使ってもらいたいと思っても、山奥で不便な田舎の土地や家屋、誰が何に使うというのか?」
「この財産を一人息子に残すのはむしろ重荷なんじゃないだろうか?」
ニュースなどで空き家問題を耳にしていたこともあり、いろいろな思いがめぐったと言います。
◆悩みに悩んでその結果……
当時、自分自身や家族にも様々な問題が降りかかり、日々その対応で精一杯。子供も小学校低学年でまだまだ手がかかる時期。母親の看病、また亡くなった時の弔事の対応をその時々でこなすのがやっとだったと振り返ります。
自宅からの距離の問題だけでなく、現実に追い立てられやらなければならないことをこなす中で、なんとか帰省している状況だったそう。
「……結局、実家の中のモノを処分することも、実家そのものを売ることも貸すことも譲ることもできなかったです。……もちろん最低限の管理はするつもりでしたけれど」
◆時間をかけての『実家の断捨離』は空き家管理から
幸い、実家の隣りには父親の実弟である叔父一家が住んでいて、空き家となった実家の管理をある程度お願いすることができました。
「とはいっても、毎日風を通してもらうわけにはいかないし、電気も止めているので行った時にはブレーカーを入れるところから始めなければなりません。はじめての冬は水道管を凍結させちゃって修理代に何万円もかかったりと失敗もしました。実家に行くたび、人が住んでいない家屋は痛むのが早いなと思いますし、とにかく空き家を一軒維持管理するのは手間と労力がかかります」
◆遺品整理は「親の思い」と向き合う時間
そうやって遠方の空き家を維持管理しながら、そこに残された両親の物を少しずつ処分していきました。そんな中でその物にまつわる思い出などを親戚から聞かされることもあり、幼い頃には知ることのなかった両親の苦労話なども、なにげない過去の出来事として話を聞くことができたそうです。
「改めてどれだけ自分を大切に育ててくれていたのかとか、間接的にでも話を聞けて、自分が親になってから聞かされたこともあって、すごく身に染みました」
実家の断捨離は残された物と向かい合うことで改めて親の愛情を感じることができる時間にもなるのです。
◆子供と一緒に『里帰り断捨離』
お盆や正月、ゴールデンウイーク。子供と一緒に里帰りをしての『実家の断捨離』は、お祭りや季節の行事が重なる事も多いそう。
また帰る度に、地元の友人や親せきが顔を出して片づけや大きな物の処分を手伝ってくれるなど、地元の人脈が復活し広がっていきました。
「自分も懐かしい友人と再会できたり、都会生まれ都会育ちの一人息子に自分のルーツを感じてもらえる貴重な機会が増えていました」
◆『みんなの田舎の家』
そんな風に繰り返し里帰り断捨離に取り組む彼女に、東京からも友人が同行してくれることになっていきます。岐阜への6時間の旅に車を出してくれる友達もあらわれ、子供もつれて数日間田舎での時間を過ごす。空き家管理と実家の断捨離の手伝いが主な目的ですが、いつも都心で忙しく過ごしている友人たちも、疑似『田舎のおばあちゃんの家』を楽しんでいるそうです。
「都会で生まれ育って両親も都会育ちだと、田舎がない人って結構いるんですよね。そういう友達には、自分の田舎と思ってこの家を使ってもらえらたなと」
またある時は、東京でお世話になっているお茶の先生が帰省に同行てくれたそう。
「従姉から茶道具を譲られて、とりあえず実家に置いておいたのをどうしようか悩んでいたら『岐阜に一緒に行ってみてあげる』とおっ しゃっていただいて。モノを処分しようと思ったら人を引き寄せた(笑)。本当に面白いですよね」
皆で茶花を摘んだり、田舎の季節のお菓子を楽しんだり、とてもゆったりした時間を味わえたそうです。
そんなこともあり、最近では『田舎の家』としてもっといろいろな使い方ができるのではないかと考えるようになってきたといいます。
◆故郷には貴重なモノがたくさんあると再発見
里帰りに同行する友人たちには「広くて空気も景色もきれい」「不便だけれどそれがいい」「『何もない』がある!」……故郷をそんな風に言ってもらえて、古い家も『古民家』と呼んでもらえる。懐かしい場所やモノであっても、不便だし、何もないところだし、たいした価値を見いだせていなかった自分の故郷での時間を、友人がとても喜んでくれる。
この女性にとって、実家の断捨離は同時に故郷の良さの再発見になったのです。
◆時間をかけたことで見えてきたこと
「相続した実家を今後どうして行けばよいのかゆっくり考えるつもりでしたが、こんな風に『たまに里帰り』することもひとつの『空き家利用』と思うようになりました」
確かに空き家は維持管理が大変です。無駄なことも多く、コストもかかります。でも故郷全体含めてその空き家である実家が今の自分には大切な場所だと再認識できた。『実家への里帰り』は、かかるコスト以上のモノが自分にもたらされている。
故郷の実家は、自分を含めて今現在必要としている人が使うことで、それは過去の思い出の場である『空き家』ではなく、有効利用されている『生きた家』となるのです。
「相続した直後はそんな風には思えなかったです」
時間をかけて、ゆっくり無理なく、実家のモノと向き合ったことで、いろいろなことを感じ、受け取ることができたと語るこの女性の実家の断捨離は、こうして数年単位で続き、現在も進行中です。
「自分自身の状況も考え方も、周りもどんどん変化しますし、実家への考え方も、見方も変わります。先の事はどうなるかわかりませんが、その時その時で無理のないかたちで、故郷そのものである『実家』を自分なりに大切にしていけたらいいなって思っています」
(4月25日 ライフ総合)
https://news.yahoo.co.jp/byline/suzukijunko/20180425-00084394/土地家屋調査士 大阪 和田清人(image)