税制改正に向けて、各省庁や業界団体から税制改正要望が提出されています。
これらを分析して、相続対策のポイントをまとめたコラム。

筆者の藤尾智之税理士は、介護事業所の経営支援を打ち出しているお方。
フツーのお年寄りが、広く一般的に使える対策がシンプルにまとまっています。

「幼稚園・保育所等に土地を貸与」が1番に来るあたりは、
さすが介護業界出身者って感じでしょうか。(^^;


【税制改正要望から予想する相続対策ポイントはここだ】

 昨年の改正相続税法の施行により、相続税の課税対象者の数が増加しました。来年度の税制改正に向け、現在、政府・与党が各省庁の要望を調整している最中で、年末に税制改正大綱がまとめられます。その中から相続に関するポイントを先取りして、税理士の藤尾智之さんに解説してもらいました。
“争族”は避けられないのか?

 2015年1月の税制改正で、相続税の課税最高税率が50%から55%に引き上げられたほか、相続した財産から一定額を差し引いて税額を低くできる「基礎控除」は4割縮小されました。それに伴い、相続税を納める必要がある人が増加し、節税対策が進む一方、相続に関するトラブルは増えています。

 司法統計によると、遺産相続に関わる15年の審判・調停数は1万4979件と、バブル経済が崩壊した1990年代初頭の1.5倍に増えました。審判・調停の対象となった遺産額をみると、1000万円超~5000万円が44%。そして1000万円以下が実に32%でした。この数字から、遺産分割で親族同士がもめる“争族”は、決してお金持ちだけの問題ではないと言えるでしょう。

 「遺言書を活用すること」や「生前贈与を公開して行うこと」など、“争族”を避けるためのさまざまな情報が世間に溢あふれています。ここでは視点を変えて、17年度税制改正に向け、各省庁や業界団体から提出された税制改正要望から、相続に関連するポイントをピックアップしていきたいと思います。

予想する相続の対策ポイント

 現在、政府・与党で議論の真っ最中ですが、12月に入ると与党の税制調査会が税制改正大綱を公表します。この大綱が来年の通常国会で審議された後、法律が施行されます。

 ポイント1 幼稚園・保育所に土地を貸して、未利用土地にかかる相続税をゼロにする
 幼稚園・保育所等に土地を貸与した場合の非課税措置の創設(厚生労働省、文部科学省、内閣府の合同要望)

 待機児童の解消を最重要課題として取り組んでいる政府は、「待機児童解消加速化プラン」として、17年度末までに保育の受け皿を50万人分増やす計画です。そのために幼稚園や保育所整備のための借地料の支援の強化などといった財政支援が盛り込まれています。

 そこで、注目されているのが相続財産となる土地です。土地は財産総額の約半分を占めると言われ、財産評価額を押し上げる要因です。

 宅地などとして利用されていない未活用の土地がある場合、アパートやサービス付き高齢者住宅などの敷地として貸し付けることで評価額を下げる「小規模宅地等の特例」を使うケースがよく見られます。しかし、この特例では、減額される割合は50%、面積も200平方メートルが限度となっています。

 例えば、200平方メートルの未利用の土地(評価額1億円)があり、相続税の実効税率が30%とした場合、相続税額は以下の通りです。

            (評価額) (評価減)  (実効税率)  (相続税)
節税対策なし     1億円 ×  ―  ×  30%  =  3000万円
小規模宅地特例    1億円 × 50% ×  30%  =  1500万円

 現在は特例を活用しても1500万円の相続税を申告しなくてはなりませんが、この要望が実現すれば幼稚園や保育園に貸し付けることで、その土地にかかる相続税はゼロとなります。

上場株の相続税の評価方法

 ポイント2 現預金を上場株に変更して評価額を下げる
 上場株式等の相続税評価の見直し(金融庁)

 相続財産の土地には評価減の特例があり、現預金よりも建物や土地の方が評価額を下げやすいことは自明の理です。ところが、相続財産として2番目に多い上場株は原則、株保有者が死亡した日の時価で算出されるため、納税日までに株価が下落しても死亡日の時価評価で納税する必要があり、その後の株価変動の影響を受けてもなにも手立てがない状況でした。

 これを受けて、金融庁は上場株の相続税の評価方法を現在の時価(100%)から90%に下げるように要望を出しました。

 例えば、時価1億円分の上場株などを保有していた場合、評価額はマイナス1000万円の9000万円になります。相続税の実行税率を30%としますと、節税効果は300万円[(1億円-9000万円)×30%]ということです。小規模宅地等の評価減と比較すると、確かに節税額は少ないですが、積極的に活用することを念頭に置いておいた方がいいでしょう。

 そして、これをきっかけとして資産構成(ポートフォリオ)について改めて考える時期に来ていると思います。

 ポイント3 生前贈与と組み合わせて、財産総額を抑える
 積立NISAの創設(金融庁)

 14年1月から導入されたNISA(少額投資非課税制度)は、20歳以上を対象とした投資の優遇制度です。金融庁によると、今年6月末の時点でのNISA口座数がおよそ1030万件、累計買付金額が約8.4兆円に達し、制度の開始以来、順調に推移しています。さらに今年1月から0~19歳が対象の「ジュニアNISA」もスタートするなど、資産形成の手段として誰でも手軽に投資が行うことができるようになりました。

 その一方で、開設したものの非稼働の口座が53.5%となっています。その理由として、「まとまった資金がない」「どのように有価証券を購入したら良いのかわからない」など、投資未経験者で実際の投資に踏み切れない人が多く見られます。

 NISAは年間120万円までの投資の収益が5年間非課税になる制度ですが、金融庁は、年間60万円まで積立投資を行い、その後、通算20年間非課税になる「積立NISA」制度創設の要望を出しています。少ない資金でも長期・分散投資のメリットを十分得られるとしているからです。

 そこで、「積立NISA」と相続税の節税対策の王道・生前贈与を組み合わせた“3世代財産継承スキーム”が考えられます。

 ご存じの方も多いと思いますが、贈与税の基礎控除は1人当たり年110万円で、この範囲内の贈与なら非課税です。生前贈与は長期間行えば、その分、節税効果が大きくなります。

 そこで、毎年110万円を子や孫に贈与し、そのうちの60万円を積立NISAへ、残りの50万円を保険商品へと投資すれば、将来課税対象となる相続財産は「110万円×20年×子や孫の人数」だけ減らしておけるばかりではなく、子や孫へ無税で財産が確実に承継できます。その上、子や孫が財産所得(不労所得)を得られるという王道中の王道の対策が可能です。

遺族の生活を安定させるために

 ポイント4 配偶者や未成年の子どもがいる場合は、生命保険を最大限活用する
 死亡保険金の相続税非課税限度額の引き上げ(金融庁)

 現在の相続税法では、被相続人の死亡により死亡保険金が支払われた場合、法定相続人1人あたり500万円までは相続税が非課税となります。

 ちなみに30~40代の世帯主の場合、死亡保険金の平均的な加入金額は2000万円から2500万円となっています。[出典:平成29年度税制改正(租税特別措置法)要望事項 金融庁より]

 この保険金額で、残された配偶者と未成年の子ども2人がいる世帯の生活は成り立つのでしょうか。ここで忘れていけないのは教育費の存在です。

 日本政策金融公庫の15年度の調査によると、高校3年間の教育費は子供1人あたり232.4万円、大学4年間では667万円必要だそうです。

 相続時、子供2人が中学生の場合、大学卒業までに学費のみで計1800万円ほどかかる計算ですが、これに塾などの費用を加えたら、死亡保険金だけでは大幅に不足することが明らかです。

 その分、死亡保険金額を増額すると、相続税の非課税限度額を大きく超えてしまい、相続税を納税しなくてはならない事態が考えられます。

 そこで、金融庁は現行の相続税非課税限度額はそのままに、「配偶者分(500万円)+未成年の被扶養法定相続人数×500万円」を上乗せすることを要望しています。仮に配偶者と未成年者2人の家族構成の場合は、「500万円×3=1500万円」を上乗せして、合計3000万円の保険金まで非課税となります。

 この要望は相続税の節税のためではなく、遺族の生活を安定させ安心させることが目的で、私たちの自助努力が最大限生かされるものです。この要望が大綱に記載されたときには、万一に備えた生活設計について家族でコミュニケーションを取りながら考えておくことが不可欠です。

 以上に述べた税制改正要望や、税制調査会が発表する税制改正大綱は原案であるため、来年度の改正税法がこの通りに施行されるわけではありません。しかし、この機会に変更の可能性を頭の片隅に置いておくことは決して損なことではありません。身内で争わないためにも、今後の政府の動きに関心を持っておきましょう。
(10月26日 読売新聞)


土地家屋調査士 大阪 和田清人(image)
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