なかなかお目にかかれない、遺言書の検認手続きの実録。
これだけでドラマが一本できるくらいナマナマしいですね。

2つの遺言書の相違点は?
遺産分割協議の行方は?

野次馬根性に火がついちゃいます・・・(^^;

こういうのを読んでいただくと、私たちが普段、
公正証書遺言をお勧めする理由をご理解いただけると思います。

要は、検認というのは、残された封筒が「遺言書」であることを確認するだけ。
それが有効か無効かということは、日を改めてのバトルになるワケ。

つまり、自筆証書遺言は、書く方にとってはお手軽だけど、
残された方にとっては手間がかかるシロモノなんです。

遺言書を書くくらいだから、紛争を予見してらっしゃるんでしょ?
どうせなら、中途半端じゃないものを残しましょうよ。


【「遺言書検認手続き」に呼び出された!…軽いものではない】

 「遺言書の検認」。この言葉を聞いてピンとくる人は多くないだろう。民法の規定に基づき、家庭裁判所で行われる相続に関する手続きの一つだ。平成24年は全国で1万6014件が実施されたという。そんな中、本紙記者は祖母の遺産相続に絡み、立ち会いをする機会があった。

 『遺言書を検認しますので、立ち会われるように通知します』

 今春、父方の田舎の地方家庭裁判所から届いた書類の第1文がコレだった。

 遺言書の検認は、民法第1004条に規定がある。

 【遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。】

 遺言書を書いた本人、つまり、亡くなった親族は父の母、私にとって祖母にあたる人だった。一昨年秋、特別養護老人ホームで眠るように亡くなり、孫に当たる私たちに連絡が来たのは半年が経過した昨年春のこと。ようやく、凝り固まっていた遺産相続問題が前に進み始めるらしい。

 家裁からの通知書には「遺言書検認申立事件」とある。申立人は父の姉(伯母)、遺言者は祖母とあるが、いつ、どのような経緯で遺言書が発見されたのかは書かれていない。検認日時、場所も記されてあったが「備考」にはこう書かれている。

 『申立人以外の方で、都合の悪い人は立ち会わなくても結構です(以下略)』。『遺言書検認手続は、遺言書の執行前に遺言書の形式その他の状態を確認して、その偽造変造を予防するものであって、遺言書の内容が適法かどうか、あるいは、それが有効か無効かなどを調査決定する手続ではありません』

 立ち会わなくてもいいなら、なぜ呼び出すのか。出欠回答書も同封されていたので、担当書記官に何をするのか電話で問い合わせてみた。

 「遺言書の形式などを裁判官が確認し、記録を裁判所に残すための手続き、ということです。検認時の裁判官と申立人のやりとり、検認した遺言書についての記録を検認調書としてまとめます。ですから、来られなくても後日、検認調書を申請していただけば確認はできます。回答書、当日までに届くように送ってください」(書記官)

 私たち兄妹にとって、相続手続きは今回が2度目。最初は10年以上前、60代になって間もなく亡くなった父の件だ。50代で熟年離婚後、どこで何をしていたのかも知らない。が、なぜか危篤の知らせが届き、人工心肺停止の判断や親戚への連絡など最期の別れは私が仕切った。最期の数年間の人生がブラックボックスになっていた父に対し、子としての信頼はない。「何が出てくるのかも分からない」。私たち兄妹は相続人として家庭裁判所へ出向き、民法第915条の規定通りに相続放棄の手続きを取った。

 【民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。】

 遺産相続を放棄し、父方とは完全に縁が切れた。祖母の死去を知らせてきた叔父(父の弟)から「お前たちは自分の父親の相続を放棄しているから関係ないとは思うけど」とも言われた。私たちも祖母の遺産相続は無関係と思い込み、何の手続きもしなかった。

 しかし、さらに数カ月後、叔父からの連絡で状況は一変する。「父親の相続を放棄したことと今回の相続とは関係がない、と専門家が言っている。だから、お前たち兄妹も相続人だ。おばあちゃんの遺産、相続するのか、放棄するのか。態度を決めてくれ」

 【第887条第2項 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、(中略)その者の子がこれを代襲して相続人となる。】

 祖母は伯母、父、叔父と3人の子をなした。父は私を含め、3人の子の親であった。父が死去した今、祖母の相続人は、子として2人、孫3人となっていたのだ。

 その後、私たち兄妹に遺産相続放棄の書類が叔父から送られては来た。放棄するにしても既に時遅し。民法では「3カ月以内」に判断するという規定もあると話すと、「最近、知ったことにすればいい」と叔父は指南する。無縁だった祖母・父だからと放棄する気になっていたのだが、「遺産の中身は調べていないから分からない。それで、相続はどうするのか」と、叔父からの度重なる問い合わせにあきれ果てた。「相続を放棄しないことにしました」と兄妹の総意を話して以来、一切の連絡は来なくなっていた。

 「検認手続きに出席します」と告げると、書記官は「来られるのですか!」と驚いている。往復6時間以上の時間と費用をかけてくるほどの手続きではない、と言いたげにも聞こえる。

 午後1時半から検認手続きが始まる。土地勘もないため、道に迷い、家裁到着は開始10分前。身分証明書を見せ、住所と名前を書いて控室に入ると、すぐに名前を呼ばれた。

 通されたのは調停用の部屋で、四角い白いテーブルが1台、椅子が数脚。間もなくして、申立人の伯母と書記官2人が入室した。そして、スーツ姿の裁判官が登場。

 「では、検認手続きを始めます」

 検認手続きは相続関係者全員に通知され、立ち会いを求められる。「遺言書の開封に同席したい」とか、「実物を見たい」と思う人は出席すると聞いた。今回は伯母が申立人で、私を含め、4人に家裁からの通知を受けたが、私の兄妹、叔父も仕事の都合で欠席。家裁関係者以外は伯母と私の2人だった。

 裁判官に聞かれ、伯母と私は名前と住所、祖母との関係を口頭で答える。「では、遺言書を」と裁判官が伯母を促すと、茶封筒と地元地銀の封筒の2通が現れた。

 「これは十数年前、施設に入る前に母が私に手渡したもので、銀行の貸金庫に保管してきたものです」と伯母は説明する。

 「2通ありますが、市販の茶封筒の方は確かに、黒のボールペンで遺言書と書かれていますね。裏には平成◯年◯月◯日と日付が入り、遺言者である方の名前が書いてある…」。裁判官の言葉を書記官が記録していく。

 茶封筒を手に持ち、裁判官は伯母に問い掛けた。「この筆跡はどなたのものですか?」

 「母の筆跡です」と伯母。

 「遺言者本人の筆跡で間違いないですね。あなたの認識では間違いないですね」と念を押す。

 裁判官は私にも封筒の表書きを見せて、「相続人の立場で、この筆跡かどうか分かりますか?」。

 か細い文字で、筆圧はさほどないのが見て取れる。が、祖母の筆跡など見分けられるはずもなく、「分かりません」と答えると「分かりません、ね」と裁判官が念を押す。

 茶封筒にハサミを入れ、裁判官が開封。中身を取り出し「市販の便箋に黒のボールペン、1枚ですね。では、筆跡と印の確認をします」。

 裁判官は筆跡についての問いかけを行った後、伯母に問う。「印が押してありますが、これは遺言者の実印ですか?」

 押されていたのは名字のみの三文判だが、伯母は「実印です」と断言。続いて、私の番が来て、便箋を見せられる。やはり、筆圧の弱い、か細い文字で、封筒に書かれた文字と傾向は同じに見える。

 「筆跡を先ほどは分からない、ということでしたが、こちら(便箋)も分からない、ということでよろしいでしょうか?」と裁判官に問われたが、「分からない」と答えるしかない。

 「印が実印かどうかも分からない、ですか?」

 同じ作業をもう一通、地元地銀の封筒に関しても行うことになった。裁判官が開封し、一読して言った。「何も書かれていない銀行の封筒の中に、あ、こちらも遺言書の表記になっています。平成◯年◯月◯日で、同じ日付です。同じ日付で同じような内容ですが、遺言書としてある以上、遺言書として扱わせていただきます」

 裁判官は続けて、伯母に向かって言った。「どちらを有効とするのかは、ここで判断するものではありません。あくまで、どういう形式の遺言書が存在するのか、確認するためだけの手続き。どちらが優先かということについては、何か裁判になったときにそちらで判断することになります」

 2通目の遺言書に押されていた印は、祖母のフルネームが彫られていて、まるで実印のように見える。裁判官も「こちらの方が実印のように見えます」と言うが、伯母の記憶では「認め印」。欄外に試し書きがなされていたり、助詞の使い方などのわずかな違いがあったが、筆跡は同じで内容も同一だった。裁判官は言った。

 「どういうものがどういう形で入っていたか、だけを記録として残す、という手続きです。これに基づき遺産分割とかをされる際には、どちらの遺言書が有効かを協議して、協議が整わない場合は遺産分割協議に入っていくことになります。その際、(今回の2通の)どちらが有効な遺言書かは、その次に決まっていきます。よろしいですね。では、ご苦労さまでした」

 所要時間10分。あっという間の検認手続きだった。

 後日、知り合いの弁護士に聞いてみた。遺言書の検認手続きは本当に必要なのだろうか。

 「出席したのなら経験した通り。開封時の遺言書の形状や加除訂正など、文面などの状況を詳細に記録して、自筆調書遺言とする作業です。その後、遺言書の修正・改竄がされないようにするためであり、遺産相続手続きの第一歩、と言えるでしょう」

 遺言書の検認は、再度書くが、民法第1004条で規定され、「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない」とあり、過料(5万円)の規定(1005条)もある。

 弁護士はこう続けた。

 「筆跡が似せて書かれたものだとか、内容そのものがおかしいとか、自筆調書遺言として無効か有効かという争いが出てくるのは検認してから。家裁で開封したときの内容を元に争いが出たのに、気づいたら内容が変更されていたら大変。開封したときの内容は重要でしょう?。立ち会い自体はセレモニー的に思えるでしょうし、実際に立ち会った相続人の人は、『これだけですか?』と拍子抜けした感想を持つ人も多い。しかし、軽いものではない。検認を取ることは相続の土俵を固める作業なんです」

 1週間後、家裁から遺言書のコピーが付属した「検認調書」が2通届いた。検認立ち会い後、開封した遺言書のコピーを伯母から拒否されたため、家裁に申請しておいたものだ。裁判官が遺言書の形状について口述した部分は箇条書きになり、筆跡や印影に対する伯母や私の見解は「審問結果」として、丸や三角の印でまとめられている。今回の場合、まずはどちらを正式な遺言書とするか決めないといけないし、弁護士の言う通り、これが第一歩なのだ。しかし、家裁が書類印刷に使う再生紙は少し茶色がかっていて、書類を眺めていると、先日の出来事なのに、ずいぶん時間が経ったような気分になった。
(5月4日 産経新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140504-00000503-san-life


土地家屋調査士 大阪 和田清人(image)
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