(image) S県の伊藤進一郎さん(62歳:仮名)は、7年前に先祖から受け継ぐ土地の有効活用に、2DK4世帯のアパートを2棟建設しました。 伊藤さんは電機メーカーに生産管理職として勤め、定年を間近にして、老後の生活の安定と相続対策を考慮して土地活用に挑戦しました。 伊藤さんがお持ちの土地は農地でしたが、伊藤さん自身の農業の経験は、高校生の頃まで親の手伝いをしたことがある位で、会社の勤めもあり自分では農作業ができないため、近くの農家の方にお願いしてお米を作ってもらっていました。 定年退職を控え、その後の人生設計を考えて、この親から受け継いだ土地を有効活用しようとしたのです。伊藤さんは、仕事ではパソコンを駆使して高度な数値管理をしているので、相続対策、事業シミュレーションもご自身で納得いくまで計画されました。家賃設定も周辺物件を調べ抜いてシビアに設定しました。間取り、建物の装備もインターネットで流行を調べました。また、金融機関との交渉も、長期低金利時代ということもあり良い条件を引き出しました。 日頃、伊藤さんが家庭でゴロゴロしているところを見て育った高校生の娘の美香さんは、この伊藤さんのテキパキとした対応に、「お父さん。見直したわ!」と尊敬の眼差しでパソコンの画面を一緒に見たり、そんな娘に「この減価償却という言葉は・・」と解説する自分の姿に伊藤さんは心地よい満足感を感じていたものでした。その様な応援もあり、伊藤さんの土地活用の計画は順調に進みました。 ちょうどその時期に、そんな伊藤さんの土地を調べて、建設会社の営業マンが何人も訪問していたのですが、その中で、会社の知名度や信用などで業者を選んで、具体的なアパートの図面作成・見積りを依頼し、秋口には契約書に調印をしました。そして、翌年の春先に伊藤さんとしては完璧な企画をしたアパートが完成しました。 そこまでは、良かったのです・・・しかし、建設から7年たった現在、伊藤さんは深刻な悩みを感じています。「入居が決まらない・・・?!」伊藤さんは、土地の有効活用の事業シミュレーションに対して、娘の美香さんが尊敬するほど精通していたのに、建物選びに関しては素人同然だったのです。節税も事業シミュレーションも当然大切な条件でしたが、伊藤さんは入居される人たちが好む建物はどんなものか、すなわち住み心地ということに関して無関心だったのです。 専門の建設会社が建てるものだから、どこの会社が作っても十分満足できるものが建つはずだと、根拠のない期待をしていたようです。 昨年、娘の美香さんが東京で独り暮らしを始めるにあたって、娘のアパート選びには、伊藤さんも一緒に物件を見てまわったそうです。伊藤さんはこの時初めて色々な建物を比較することができたのですが、自分が建てたアパートと同じ時期につくった建物でも、部屋に入ったときの安定感や遮音性が格段に優れているものがあることに驚いたそうです。 アパート建設から7年が経ち、退職をされ時間的にも自由になる日々を過ごす伊藤さんですが、空室になった部屋に自分が一晩泊まってみて、住み心地の大切さが良くわかったとおっしゃっていました。上階の入居者が歩き回る音、赤ちゃんの夜泣き、新聞配達の駆け回る足音、意外なほど断熱性能が良くないこと・・・自分が入居者なら耐えられない住み心地の悪さに7年前気がついていればと、失敗体験をお話して下さいました。 こうした出来事が起こってからでは、手遅れになりかねません。 しかし、どうしてこんな事が起こってしまうのでしょうか? それは、賃貸経営で一番重要な「建物選びの確かな目」を見落としてしまっているからです。あなたがもし、この「建物選びの確かな目」を理解していなければ、伊藤さんと同じ失敗をするかもしれません。おそらくアパート経営で失敗される方の一番ありがちな例だと思います。