(image) イギリスに留学した経験がある人はご存知でしょうが、イギリスの住宅事情は日本とかなり異なります。 イギリスの賃貸は「フラット」が一般的です。フラットとは日本のコンクリート賃貸マンションにあたりますが、日本のマンションとはまったく別のものです。
1800年代に建てられたレンガ造りの建物が、200年以上経った今でも、現役で賃貸住宅として活躍しているのです。 ロンドンの中心部には一戸建ては少なく、街中にフラットが建ち並び、ロンドンの街並みをつくっています。 このイギリスのフラットは面積が広いので、家賃が日本並みに高く、一人でマンションを借りて住むのはよほどの高給取りではないと難しいようです。そこで、1つの家を数人で借りて住むようなスタイルが主流となっています。一戸建てを数人でシェアして住むこともあれば、街中のフラットを1世帯分借り、部屋数が多いのでそれを別の人に又貸しするようなスタイルもあります。 もちろん、こういう暮らし方は長くは続きません。イギリスの人たちは引っ越す回数が多いといいます。若いうちはフラットを渡り歩き、ある程度お金が貯まったら郊外の一戸建てを買う、という人も大勢います。この点では、日本と変わりはありません。 しかし、人々は永住しなくても、
建物が「永住型」であるという点で、イギリスは日本とは大きく異なります。乱暴な言い方かもしれませんが、どんなに劣悪な住まいであっても、住人がそれで満足していたり、また経済的な事情で他に移れない場合などは、そこに永住することになります。 けれども、日本の建物はそれに対応できません。建物が「永住型」になっていないのです。
イギリスのフラットは、時代は変わっても、200年間建物は変わらずに人々に生活の場を提供してきました。国も地域の人もフラットを大切に保存し、入居者は一時的に住むのであれ、部屋を大切に使います。 やはり、こういう古い建物があるからこそ、住まいを大切にする心や愛する心を育む環境が生まれるのかもしれません。建てたり壊したりを短時間で繰り返す日本の住宅とは全く違いますが、日本の目指す賃貸住宅の姿がそこにはあります。 もちろん、レンガや石造りの建物はイギリスの風土だから合うのであり、日本では難しいでしょう。けれども、コンクリートのようにレンガや石に代わる半永久的に持つ素材は存在するのですから、それを住宅づくりに活かさない手はありません。 これまで述べてきたように、日本の賃貸住宅は街並みなど考えずに、築十数年で劣化するような建物を高度経済成長時代から大量生産してきました。 もしも当時の政府が住宅の重要性に気づいていたなら、建築基準をしっかりと定め、50年後も100年後も残るような住宅を建てていたのかもしれません。当時は建築技術も限られ、人口も爆発的に増えていたという事情もあり、急場しのぎで木賃アパートや公団住宅のような形態の住宅をつくるしかなかったのかもしれませんが。 しかし、これからはそうはいきません。これ以上、人が住まない・住めないアパートやマンションを増やすわけにはいきません。ただでさえ住宅は供給過剰状態になっているにも関わらず人目は減少しているのですから、本当に必要であり、質のいい住宅だけを建てていく政策が必要でしょう。 地域の景観を損なわず、何十年もその地域に息づくような賃貸住宅はどのようなものなのか、これは国や県や市も巻き込んで議論していくべき課題だと思います。50年後も100年後も残るような賃貸住宅を目指すかどうかによって、これからの日本の住まいの在り方は決められてしまいます。